ゲーム理論(同時手番ゲームと逐次ゲーム)

2020.07.27

前回の記事を書いてから既に1か月が経過していたのですね。月日の過ぎるのは早いものです。さて、覚えていらっしゃる方もいないでしょうから(ww)復習から入りましょう。

図-1

第一のケースは図-1に示す同時手番のクールノー競争(増産か現状維持か)です。前回の図と異なるのはA社とB社では売上の規模(会社の規模でも結構です)が異なり、A社の方が大きな企業だとします。

シナリオ1:A社は現状維持、B社も現状維持、売上は23億円と16億円

シナリオ2:A社は現状維持、B社は増産、売上はA社18億円に減、B社は25億に増加

シナリオ3:A社は増産、B社は現状維持、売上はA社18億円に減、B社も10億円に減少

シナリオ4:両社共に増産、A社は20億円に減、B社も同様に14億円に減

B社は現状維持を選んだ場合、16億円が10億円まで下がるシナリオ3があり、A社が増産しようが維持しようがその支配戦略は「増産」以外にありません。

一方のA社はB社が増産するか維持するかでどちらが良いか決定出来ません。これはA社が支配戦略を持っていないことを示しています。しかし、A社はB社にとっての支配戦略が「増産」しかないと分かっていますので、自然とA社の選択も増産となりシナリオ4に落ち着きます。これが「ナッシュ均衡」と呼ばれるものです。(ここまでが前回の復習です)

図-1

同じ図ー1を使って第二のケースをやります。

今度はB社が先に戦略を決める(リーダー)A社はそれを見て戦略を決めることが出来る(フォロワー)とします。

これはA社とB社で意思決定に順番が出来たことになります。これを「逐次ゲーム」と言います。最初にやったのが「同時ゲーム」です。

先手のB社は「自社が選ぶ戦略に対してA社はどの様に反応するか」を予測しながら、A社を誘導させるような戦略を描くことが出来ます。

A社の最良の手はシナリオ1(現状維持)です。次はシナリオ4(増産)これを前提にB社は自社の戦略を考えた場合、選択肢はシナリオ1若しくは4のいずれか高い方です。つまり、B社の最良のシナリオは1(現状維持)と考えられます。

で、あれば、リーダーであるB社は増産はしないことを先に宣言してしまいます。どうでしょう。その場合、後攻のA社の選択はシナリオ1しかないことになります。つまり、ナッシュ均衡はシナリオ1となった訳です。

先ほどの第一ケース(シナリオ4)から変わったことが分かるでしょうか?

2社が相手を読み合う訳ですが、全部知らない状況か、先攻後攻が決まっている場合かで支配戦略は変わってしまうのです。

図-2

では、第三ケースは図ー1からA社とB社の状況を少し変化させた図-2 を使います。

シナリオ1:A社もB社も現状維持、売上はA社20億円、B社6億円

シナリオ2:A社は現状維持、B社は増産、売上:A社15億円に減、B社は7億円に増

シナリオ3:A社は増産、B社は現状維持、売上:A社17億円に減、B社も5億円に減

シナリオ4:A社、B社共に増産、売上はA社12億円に減、B社も3億円に減

さて、第二ケース同様にB社がリーダー、A社がフォロワーです。B社はA社の選択を予想しながら、自社の戦略を考えます。B社にとってはA社が現状維持であろうが、増産であろうが、増産するしか手はありません。

これを知ったフォロワーのA社はよもやシナリオ4には進めません。現状維持を選択し、甘んじるしかないことになります。

しかしながら、A社としてはシナリオ2は3番目に悪いシナリオであり、何とか2番目に良いシナリオ3にしたいと考えます。

さて、この場合、A社はどうすれば良いのでしょうか?

有利と思われるのは先に決める方です。と、すればA社はB社から意思決定のリーダーを奪えば先攻後攻の順番が逆転し、A社主導のシナリオ1に誘導することが可能となります。

ひとつの例として、B社が意思決定する前にA社は「来年は絶対に増産させる」と宣言してしまうのです。(これはA/B社間に信頼関係が必要です。B社が本気で信じる必要があるからです)A社も駆け引きでなく、本気で宣言しないとこの作戦は二度と通用しません。

先にA社が来年は増産すると言われるとB社にとっての選択肢はシナリオ2か4しかありません。とするとナッシュ均衡はシナリオ2に落ち着き、A社が望む選択肢に誘導したことになります。

ゲーム理論の面白いところはゲームのルールを自分本位に変えることができることです。(口先でのルール変更は通じませんが)会社は合理的な判断を行うと言う大前提の前では、相手が合理的に最善の選択肢に陥る様にゲームのルールを変えられるかどうかが真の戦略のようです。

次回からはゲームチェンジの実例を少し紹介して行きます。

 

参考文献:世界標準の経営理論(入山章栄:ダイヤモンド社)

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